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2020.01.11

しろい手

全国障害者問題研究会発行「みんなのねがい」の撮影で。

施設の近くにある児童公園に子供達が遊びに行っているので、そこで撮ってほしいと先生からお話があり冬の朝その公園に向かった。そこには健常者の子供達(主に小学生)も沢山いて砂遊びやボール遊び、遊具もあり施設の子供達もそこで楽しそうに走り回っていた。撮影を始めてしばらくすると小学1、2年くらいの施設の男の子が目の前まで走り寄ってきた、表情はあまりなかったがほっぺたの赤いかわいい男の子だった。彼は話しかけてくるわけでもなくただじっとこちらをしばらく眺めてから遊具の方に走って行った。公園で走り回って遊ぶ施設の子供達を追っかけながら撮影をしていると、ふと視線を感じさっきの彼が立ち止まってこちらを見ているのに気がつく。彼は近寄ってくることもなくまた皆の中で遊び始めた。子供達を追いかけ1時間は過ごしただろうか。寒い日だったが動き回って汗をかいた、立ち止まり首からカメラをぶらさげ次にどこで撮ろうかと辺りを見回していると、右手の人差し指が突然ふわっと温かくなった。さっきの男の子が横に立っていて、人差指につかまっていたのだ。不意をつかれたが驚いたのはそのせいではなかった。子供が大人の手を取る時そこには物を欲しがったり行動を催促するような何らかのメッセージが込められていることが多いが、その手にはこうして欲しいあーして欲しいと言う類のメッセージはまったく込められていなかったからだ。ただ、手をつなぎたいだけ、そこで一緒にいたいだけ。それしか伝わってこなかった。何もせず、何も起こらなかったが、その少しの間自分と彼はそこでひどく真面目に生きていたのかも知れない。小さな願いが、命の温度がそこでただあたたかく、たしかに自分の中に入ってきた。考える間もなく涙が出ていた。あれは、しろい手。欲望を知らないまっしろの手。そこにいる誰にも気づかれる事なく静かに雷に打たれた。